十二月十一日、たから保育園で新しい遊具のお披露目式が行われる。ちょうどその時期は十二月定例議会の会期と重なる可能性があるが、できれば議会のご理解をいただいて少しの時間でも式に参加したいと考えている。「たかが遊具」と思うなかれ、「されど遊具」なのである。
始まりは今年の一月にさかのぼる。平成十四年度予算査定作業の中で、たから保育園から総合遊具設置の予算要求があった。老朽化した遊具を撤去して、いろいろな遊び方のできる金属製の総合遊具を園庭に設置したいとのことだった。確かに、たから保育園の遊具は古い。子ども達が安全に遊ぶためにも当然の予算要求である。しかし私はこんな質問をした。「この素晴らしい夢のような遊具はどのようにして選定したのですか?」と。答えは「メーカーのカタログからです」とのことだった。
この答えは間違ってはいない。園長の園児への思いは真剣だ。これまでの役場のやり方としては当然であり正解である。でもこれでいいのだろうか。役場がよかれと思ったものが本当に子ども達にとっても良い物といえるのだろうか。そしてまた、役場が役場の感覚で物を作り「さあ使いなさい」という立場であり続けていいのだろうか。私が言い続けてきた「行政参加の町づくり」とは、目的意識を持って主体的に行動する町民の皆さんを行政がどのように支援することができるか、であったはずである。
「もう一度持ち帰って保護者の皆さんに問題提起をして欲しい」、担当課にはそのようにお願いした。しかし保護者の皆さんがこちらから投げたボールをどのように受け止め、どう投げ返してくれるかという不安もあった。もし「そんな面倒くさいことを言わないで、役場で決めてください」と投げ返されたら、時間だけが無駄になったことになる。
しかしその不安は無用のものだった。我々のボールを真正面で受け止めてくれた保護者会は「遊具設置検討委員会」を立ち上げ、本年六月四日、十五ページに及ぶ「大型固定遊具設置に関する経過報告書・提案書」が町長あてに提出された。たいへんな労作だった。保護者アンケートから始まり、基本コンセプト決定と設置予定地の検討。『いち』からの勉強と題して、材質・設置費用・メンテナンス・保険等について詳細に記されていた。勉強のために遊具メーカーに足を運び、保護者会の一員でもある一級建築士の助言・協力も得た。基本コンセプトの項にはこう記されている。「材質を木製にというのは、保護者の多くが『木のぬくもり』『やさしさ、あたたかさ』を体感させたいと考えているためです。そこでその希望と、『地球環境を守る事が子供達の未来を守る』ことの両方を兼ねた意味で、特に間伐材を利用することにしました」と。
道のりが平坦だったわけではない。前例のない試みに対する行政側の戸惑い。保護者会側の「この作業は住民の意見を聞くという町長のアリバイ作りでは」という不信感。栃木県の水と空気を守る意味からの県産間伐材使用と汎用品としての展開をにらんだ県内木工業者との協議。安全とコストの問題等々、直面した課題が次々と脳裏に浮かんでくる。
ありがたい予想外もあった。県の補助金がついたのである。この計画は補助金ありきで始まったことではないが、基本コンセプトにある保護者の熱い思いが県内の山々を守ることにつながると認められたのだ。「個人」の思いが「公共」の利益へとつながった。この町の「ローカル」な試みが「グローバル」な本物であると証明されたのである。
保護者会の皆さんはバザーを開催し、お披露目式の費用を捻出されたという。遊具の名前も公募したいと報告書にはある。園児が遊具に愛着を持てるように園児自身が色を塗ったり絵を飾るとも聞いている。多くの方々の思いの凝縮した遊具と手作りのお披露目式に私の胸はワクワクする。
やはり「たかが遊具」ではなく、「されど遊具」なのである。
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こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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