町長判断による住民投票の選択について
町民の皆様は新聞紙上等ですでにご存知のことと思いますが、去る三月十八日、私は、町長判断による住民投票の請求を高根沢町選挙管理委員会に行いました。住民投票請求(直接請求)に至った理由についてご説明申し上げます。なお、町民の皆様にしっかりとご認識いただきたいことは、この住民投票は、宇都宮市との「法定協議会」を設置することが是か非かというものであり、住民投票の結果が即ち合併の決定ではないということです。あくまでも合併の決定には、町議会の議決がなければなりません。
【主役は町民の皆様】
私はこれまで「合併の主役は町民の皆様です」と申し上げてきました。もちろん日本は、憲法や地方自治法に規定された代表民主制の国ですから、町民の皆様に選ばれた町長と議会議員が議論をして高根沢町の進路を決めてきました。その原則は基本的に変わることはありませんが、今回の合併問題のように、五十年に一度の時代の要請といわれ、さらには町の将来を決定付けるような重大な判断については、当事者である町民自らがその決定に参画しやすいようにと、合併特例法は、町民自らが町の決定に参画する権利を数多く保障しています。もちろんそこには、住民自らが合併問題を住民の手で決めようとする強い意思がなければなりませんが、高根沢町においては宇都宮市、芳賀町という合併相手の選択先こそ違え、それぞれに署名活動を行うという町民自らの判断と行動による意思表示が行われました。まさに「合併の主役は町民の皆様です」という言葉が現実のものになったのだと感じています。
合併の主役が町民の皆様であり、その方々が、法律で国民に認められた方法を尽くして結論を導きたいと望むのであれば、最大限それに応えることは当たり前のことであると考えます。もちろん住民投票(直接請求)は最後の手段であり、安易に行うべきものではありませんが、町民の意見が二分し、町長や議会がどちらの結論を出しても大きな「しこり」を残すことが明白な場合、「わかりやすい政治。わかりやすい行政。わかりやすいプロセス。」に徹することこそが、結論はどのように出るにせよ、町民皆様の理解と納得につながることだとも思います。
【住民投票は避けられないのか?】
合併特例法によれば、私が住民投票の請求を選択しない場合でも、「宇都宮市との合併を進める住民の会」の皆さんが、有権者の六分の一にあたる四〇一一人以上の有効署名により、住民投票を行うことができます。去る三月十八日、「宇都宮市との合併を進める住民の会」阿久井敏男代表は、町議会本会議における意見陳述のなかで、「住民発議が否決され、町長が住民投票の選択をしない場合には、住民投票実現のために、再度の署名活動を行う」主旨の決意を表明されました。先に提出された住民発議のための署名数(六〇二五人)を考慮すると、有権者の六分の一にあたる四〇一一人以上の有効署名はほぼ確実に収集されると予想することが出来ます。つまり、実施時期の早い遅いはあるにせよ、住民投票を行わなければならない状況であると判断せざるを得ません。
そのような状況の中で、私は、合併特例法に基いて、住民投票を行うか行わないかの決断をしなければなりませんでした。①住民投票を選択した場合には、すみやかに町民の皆さん自身の判断を仰ぐことになります。②住民投票を選択しない場合には、「宇都宮市との合併を進める住民の会」の皆様が再度、有権者の六分の一以上の署名を集めることによって、合併特例法上自動的に住民投票を行うことになります。
どちらの選択をしても住民投票が不可避だとするならば、私が住民投票の選択をせず、住民投票を望む皆様が再度署名活動をはじめた場合に、「結論はわかりきっているのに、なぜこのような労力と時間を町民に負担させるのか」との感情論が先行してしまうでしょう。よって、町民の皆さんがもっとも心配されている「合併問題によるしこり」を少しでも減らすためにも、町長の判断による住民投票を選択すべきであると考えました。
【芳賀町の皆様に真摯でありたい】
高根沢町は現在、芳賀町・高根沢町合併協議会を設置し、芳賀町との合併に向けて協議を行っています。合併協議を行っている芳賀町の皆様に対して、高根沢町の現在の不安定な状態は一刻も早く解消しなければなりませんし、解消する努力をすることが芳賀町の皆様に対する真摯な姿勢であると思います。町長判断による住民投票実施の場合には本日(三月十八日)から四十日以内に住民投票が実施されますが、再度の署名活動による住民投票実施においては、約三ヶ月前後という住民投票実施までの期間を見なければなりません。芳賀町の皆様に対して様々なご迷惑をかける可能性のある高根沢町の不安定な状態を早期に解消するためにも、町長判断による住民投票を選択すべきであると考えました。
【芳賀町との合併を推進しておられる町民の皆様へ】
三月十二日に一〇四二一名の署名を添えて「高根沢町と芳賀町との合併を推進する要望書」を提出された「高根沢町と芳賀町との合併を推進する会」の皆様からは「合併問題によるしこりを残さないためにも、住民投票を避けてもらいたい」という要望をいただきました。皆様の真剣に町を憂える気持ちを受け止めながらも、結果としてそのことを実現することが出来ませんでした。この事実に対しては、ただただ頭を垂れることしか私には出来ませんが、先に述べましたように合併特例法に基く現在の状況をご理解いただきたいとお願い申し上げます。幸いなことに、「宇都宮市との合併を進める住民の会」の皆様も、住民投票の結果、「芳賀町という選択結果になった場合は、それを最大に尊重します。また、宇都宮市という結果になった場合は、それを最大に尊重していただきたいと念願します」と公式に表明しておられます。このことは、町民自らが判断した結果については「しこり」を残さずに受け入れるという民主主義の原則を踏まえた考え方であり、この考えは「高根沢町と芳賀町との合併を推進する会」の皆様の「しこりを残したくない」という思いとも相通じるものだと思います。
【町はもめているのか、それとも民主主義の健全な形なのか?】
現在の状態を「もめている」と見るか「民主主義の健全な形」と見るかは、人によって見解の分かれるところだとは思いますが、次の時代にこの高根沢町を担う子供たちに見せるべき私たち大人の背中は、「健全な民主主義の形」を作ろうと努力する姿でなくてはなりません。それぞれの署名活動に表された、今回の合併問題における町民皆様の自らの判断と行動の姿は、まさに「民主主義の健全な形」を作ろうと努力する姿であると信じています。
かつて、私の尊敬する岡田前町長は、「町民参加の町づくり」を訴え、県内町村初の「情報公開条例」や「まちづくり百人委員会」などの斬新な施策を打ち出しました。その精神から言えば、今回の合併問題は、「町民参加の町づくり」そのものであると考えます。
住民投票を「悪」とするのも自分達であり、「善」とすることもまた自分達です。何卒、自らが判断した純粋な意思を、一人でも多くの町民の皆様が示してくださいますことをお願い申し上げます。
■こちらのコラムに関して
こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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