四十年来の悲願
宝積寺駅東口開設のための東西自由通路と新駅舎建設工事が始まりました。四十年来の悲願である宝積寺駅東口開設は、故岡田前町長が計画策定に着手された事業でした。岡田前町長が志半ばで急逝されたあと、私がこの事業を引き継ぎましたが、最初の計画にあった東口広場予定地や進入道路予定地の地権者同意が取れず、計画の見直し作業を何度か行いました。ですから、駅前ロータリーの広さや北からのアクセスなど、課題が残されていることは十分に承知しています。しかし、すべての問題を解決してから事業に着手するという考え方に立つとすれば、駅東口の開設はどんどん遅くなってしまいます。宝積寺駅利用者の約八割が東側の方々であることや、朝の交通渋滞を考えると、決して百点満点ではないし解決しなければならない課題は残っているにしても、先ずは東口を開設することが重要だと判断しました。もちろん、将来、課題が解決できた時には、もっと使い勝手を良くすることができる可能性を含んでの計画でもあります。鉄道という軌道系の交通手段は地域の貴重な資源です。今後、環境やエネルギーの問題が深刻になって、鉄道の通っていない地域が新たに鉄道を引きたいと考えてもそれは事実上不可能なことです。ですから幸運にも高根沢町が持っている大切なこの資源を最大限に生かしていきたいのです。工事自体はすべてJRが行っていますが、予定通りに事業が進捗すれば、来年の秋には東口開設となります。ご協力いただいた地権者の皆様に心から感謝申し上げると共に、何かとご迷惑をおかけしている周辺の皆様にも深いご理解をお願い申し上げます。
無いものねだりから、あるもの探しへ
今年の一月、県町村会の視察研修で熊本県の黒川温泉を訪れました。今でこそ行ってみたい温泉地NO1、特に女性に人気の黒川温泉ですが、かつては二十四軒ある旅館のほとんどが倒産寸前の温泉街でした。確かに山の奥深く、道も狭く観光バスは温泉街まで入ることができません。これまでの常識から言えば条件は最悪です。あるのは豊かな掛け流しの温泉と、山々の静寂だけなのです。どの旅館にも大きな宴会場などありません。カラオケもありません。個人客を徹底的に大切にする考え方が貫かれていました。料理は「黒川フレンチ」「黒川イタリアン」と呼びたくなるような、地元産の食材を創意工夫いっぱいに料理したものでした。山あいの里です。豆類や雑穀が色鮮やかに盛り付けられ、保存食としての山菜もここでは主人公です。当然、マグロやイカの刺身などは出てくるはずがありません。出てくるのは、ここで捕れた渓流魚であり肉は山の獣たちのものでした。さらに温泉手形というものがあり、これを持っていれば宿泊した以外の旅館の露天風呂にも入れるとのことでした。幹線道路から遠い、道は狭い、倒産寸前で新たな設備投資が難しいという無い無いづくしの環境の中で、旅館のオーナー達は無いものねだりではなく、あるもの探しをしたのだと思います。
黒川温泉のこの試みは、実はこれからの地方自治体に大きな示唆を与えてくれます。地方がこれまで続けてきた中央に対する「陳情合戦」に、国はもう応えることができません。蛸が自分の足を食べて身動きが取れずに死んでいくことと同じことになってしまいます。自分達の財布で自分達の仕事をする。あるもの探しをしてそれをとことん生かしていく。そんな思いを最近強くしているところです。
宝積寺駅東口では「あるもの探し」を実行しました。詳しくは次号で報告いたします。
■こちらのコラムに関して
こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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