東小学校の四年生
十月十一日の下野新聞に、栃木県庁「昭和館」で解説ボランティアをなされている七十歳男性の方からの投稿が載りました。十月一日に「昭和館」を見学に来た高根沢町立東小学校四年生のことについてでした。「昭和館」四階の大広間「正庁」は土足厳禁で靴を脱いで上がらなければなりませんが、そのときの様子が書いてありました。「児童たちは静かに靴を脱ぐと、自然に向きをそろえました。見事に一直線に並んでいました。まさに脚下(きゃっか)照顧(しょうこ)(自分自身の足元を顧みよの意)そのものでした。」そして文章の最後はこう結ばれていました。「ボランティア冥利(みょうり)に尽きました。児童たちは統率がとれ、マナーも良く、私の心まで洗われるほどでした。」
七年前のことを思い出します。それは「はきものを揃える」というポスターでした。そこには次のような言葉が書かれていました。
「はきものを揃える」
はきものをそろえると心もそろう 心がそろうとはきものもそろう
ぬぐときにそろえておくと はくときに心がみだれない
だれかがみだしておいたら だまってそろえておいてあげよう
そうすればきっと世界中の人も心も そろうでしょう
円福寺 藤本幸邦
このポスターは、平成十五年十月十日に行われた「とちぎコープ生活協同組合創業三十周年記念式典」に出席したときに、記念講演をされた自動車用品販売会社イエローハットの創業者鍵山秀三郎さんからいただいたものでした。数日後、私は鍵山秀三郎さんに手紙を書きました。
「いただいたポスターに心が洗われました。お願いなのですが御社で作られたポスターを実費で譲っていただけないでしょうか」
時を置かずに小包が届きました。中には「はきものを揃える」のポスターが二百枚入っていました。添え書きには「代金は結構ですから、お役立てください」とありました。
いただいたポスターは、鍵山さんには申し訳ないと思いつつも、ポスターの一番下に印刷してあるイエローハットという会社名をカットして、町内の各小中学校や役場などの公共施設に貼ってもらったのでした。
役場本庁舎にはまだ貼ってあるのですが、もう七年も前のことですから、破れたり変色したりして他はもう貼ってないだろうと思いながら、阿久津こどもみらい課長に確認すると、東小にはまだ貼ってあるとのことでした。残念ながら教育委員会には貼ってありませんでしたが。
もちろんポスターを貼ったから子どもたちが履物を揃えたわけではありません。奥畑校長先生や教職員の方々のご努力、家庭環境の賜物(たまもの)以外の何ものでもないことは当然です。
幕末から明治にかけて来日した外国人は一様に、日本人の道徳心の高さに驚き、尊敬を込めて文章に残しました。履物を揃えることや落し物を持ち主に戻す道徳が、いかに大きな「文化」であるかが国の外から見るとよくわかります。私たち日本人は、外国に誇るべき倫理・道徳を保持し、それを永い歴史の中で放すことなく生きてきたことを、東小の四年生は思い出させてくれました。本当にありがとう。
(鍵山秀三郎氏のことは広報たかねざわ平成十六年二月号の「夢だより風だより」に書いてあります。)
■こちらのコラムに関して
こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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