現在全国には2558の町村があり、全国町村会をつくっている。その全国町村会が「町村週報」なる印刷物を発行し私も毎週目を通している。その中で評論家草柳大蔵氏の「ほんとうの子どもたち」という一文が忘れられない。
「森林スクラム」という情報誌が募集した「ふるさとの森」と題する作文コンクールの入選作品を読んで草柳氏は書く、「少年犯罪がおどろおどろしく取り上げられているが、とんでもないことで、自然の豊かな日本の子どもたちは素直な心を持っていた。森の中の生命に目を見張り、森の風に甘い匂いを感じ、森に声のあることを知っていた」そして最優秀作となった小学5年生の女子生徒の作文を引く、「木は、空に向かって酸素を出して(太陽に)恩返しをし、地面の中ではいろんな生き物を養って、地球に恩返しをしているというのです。空と木の根っこから栄養をもらうばかりでなく、ちゃんとお返しもしているというのです。木に比べたら、人間はどんな恩返しを地球にしているのでしょう」
これを読んで氏は胸が熱くなったと書いている。当然だと思う。
私にとっても胸の熱くなることがあった。それは「上高ビオトープ2000」である。ビオトープという言葉は最近よく耳にするが、意味は「動植物の生息空間」であり直訳すると「生命の場所」という。その言葉を使った「上高ビオトープ2000」が上高小学校の一隅に7月、完成した。作業はすべて、教職員・児童・PTA・地域の方々の手で行われ、6ヶ月の月日を要した。
材料は出来るだけ不要になったものを使い、流れの深みを造ったのは5個の廃棄浴槽であった。旧校舎の土台に使用されていた大谷石も残らず役に立った。素人集団の悲しさか、計画変更は数知れず途方に暮れていると、必ず助けてくれる人が現れた。土留め用岩石大型トラック1台、危険防止用柵6m、植栽用黒土8t、その他にも玉石、花木、水草、小魚、カワニナ等の貝、作業用の重機、そしてビオトープ造成の技術指導、これらすべて善意の賜物なのであった。こうして完成した約40mのせせらぎには、雀が水浴びに訪れ、オハグロトンボがナンテンの枝に羽を休めているそうである。
子どもたちは今、校長先生とこんな会話を交わしている。「一生懸命やるとたいへんなことも出来るんだね。一生懸命やるとつらいことも楽しいんだね。そして一生懸命やると、必ず誰かが助けてくれるんだね」と。1998年に文部省が全国1万1000人の小中学生を対象に行った調査によれば、「生活体験・自然体験」の多い子どもほど「正義感・道徳観」が強いという。
今月も、わが町の「ほんとうの子どもたち」に大切な事を教えられた。環境文学として名高い「沈黙の春」を著したレイチェル・カーソンの、「知ることは感じることの半分も重要でない」との言葉を思い出しながら、ペンを置くことにしたい。
(この原稿締め切りの翌日、「上高ビオトープ2000」はNHKで生放送された)
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こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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