遺伝子は寝起きしている
村上和雄筑波大学名誉教授がこんな事を書いていました。人間の遺伝子は寝たり起きたりしていることが確かめられたというのです。しかも大半は眠ったままで使われていない。さらに大天才と普通の人の遺伝子暗号の違いは0.01%、つまり99.99%は同じであることもわかりました。
そこで村上名誉教授は、この0.01%の違いは何なんだろうと思いをめぐらせました。今、ある仮説を立てて証明に取りかかっているそうです。その仮説とは「人間が心構えとして良い目的や志を持てば、良い遺伝子のスイッチがオンになり、身体や能力が活性化する。」つまり大天才と普通の人のわずかな遺伝子暗号の違いは、眠っていた良い遺伝子が起きるかそのまま寝ているかの違いであり、その違いを握る鍵は目的や志を実現するための強い意思にある、ということなのです。
普段私たちが経験する、あの時は寝なくても頑張れたとか、辛かったけど充実していたといったことを、「気力」や「根性」という言葉で説明しますが、実は良い遺伝子が起きていてくれたからかもしれないのです。「親の遺伝だから」などという受身ではなく、もっと積極的に人生を切り開くことができることを科学が証明しようとしています。この仮説がどう証明されるのか楽しみです。
心の中の物差し
前の五千円札の顔は新渡戸稲造でした。新渡戸稲造は「武士道」という本を書きました。その本を書くきっかけとなったのはあるベルギー人からの質問でした。「日本では宗教教育なしにどう道徳を教えるのか」というものでした。西洋の人々にとって道徳心は宗教と切り離すことのできないものです。宗教教育は彼らにとって当たり前のことでした。その考え方からすると国是として宗教教育を行っていない日本人に道徳心は育たないことになります。ですから新渡戸稲造にとっては、日本人の正義感の根幹にあるものを伝えたいという思いがあったのです。西洋の人にとっての宗教に代わる、日本人の道徳規範を支えるものの一つとして「武士道」を紹介したのです。したがってこの本は英語で書かれました。当時のアメリカ大統領ルーズベルトがこの本を購入して友人知人に配ったという逸話も残されています。私たちが読んでいる「武士道」は原本から日本語に翻訳されたものなのです。
国是として宗教教育を行わず、倫理観や行動規範を左右する物差しを日本は宗教に求めていません。思想・信条・信教の自由を保障していることは大切なことだと思います。しかし反面、そのために宗教や政治を超えたところにある基本的な規範意識が失われているとすればとても残念なことです。
先日「いただきます論争」というものがありました。ある中学生の母親が「給食費を払っているのだから、子どもに『いただきます』を言わせないで欲しい」という要望を学校に出したことから話題になりました。たかが言葉の問題という考え方もあるでしょうし、お金を払っているのだから当然という考え方もあるでしょう。でも私はとても残念でなりませんでした。
小学校五年生の児童の言葉を紹介したいと思います。担任の先生からの「人の命はなぜ尊いのか?」という問いかけに対する答えでした。「私の身体の中には、たくさんの命が生きています。ごはんを食べたり、鳥のから揚げや野菜のにっころがしを食べたり、いろいろな命をいただいて私たちは生きているからです。その命のためにも、人の命を大切にしなければいけないとおもいます」
思想・信条・信教は自由であっていいと思いますが、変えてはいけない基本、誤解を恐れずに言えば、自由が許されない根本の規範まで自由であってはいけないと思うのです。この児童の言葉から伝わってくる人間としての感受性はそのことを教えてくれているように感じるのです。
■こちらのコラムに関して
こちらのコラムは、高橋かつのりが高根沢町長在任時、高根沢町の広報誌『広報たかねざわ』で執筆していたコラム『夢だより 風だより』を、高根沢町の許可を得て転載しております。
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